農業者の経営全体を対象とした新たなセーフティネットとして、全ての農業経営品目を対象とし、自然災害による収量減少に加え農産物の価格低下による収入減少も補てんする収入保険制度が、平成31年から始まる見込みです。

制度の具体的な仕組み

※平成28年12月現在の内容であり、今後の検討により変更になる場合があります。

対象者等
  1. 対象者
    • 青色申告を行い、経営管理を適切に行っている個人又は法人農業者を対象とする。
    • 青色申告を5年間継続している農業者を基本とするが、青色申告の実績が加入申請時に1年以上あれば加入可能。ただし申告実績が5年になるまで補償限度額が引き下げられる。
    • 加入は農業者の任意とする。
  2. 収入の把握方法
    • 農業者が自己申告により農産物の販売金額等を記載した加入申請書等とともに、青色申告書等の税務関係書類を提出する。
    • 実施主体(未定:農業共済団体が新たに設立する全国組織を想定)が提出書類の内容を確認する。
対象収入
  • 自ら生産した農産物の販売収入全体を対象とする。
  • 加工品は販売収入に含めない。ただし、精米、荒茶、梅干し、畳表など税法上農業所得として扱われているものは含める。
  • 自ら生産した農産物を加工する場合は、加工原材料として販売したとみなした代金を農産物の販売収入に含める。
  • 在庫は販売収入に含める。
  • 補助金は販売収入に含めない。ただし、実態上販売収入と一体的に取り扱われている畑作物の直接支払交付金、甘味資源作物交付金等の数量払は含める。
対象要因等
  1. 対象要因
    • 自然災害に加え、価格低下など農業者の経営努力では避けられない収入減少を補償の対象とする。ただし、捨て作りや意図的な安売り等は対象外。
  2. 保険金の不正受給防止策
    • 農業者は、災害等の事故発生時に実施主体に通知等を行うとともに、実施主体は必要に応じ現地調査等を実施する。
    • 不正があった場合は、保険金を支払わないほか、重大な不正があった場合は翌年以降の加入を禁止する。
補償内容
  1. 基準収入の考え方
    • 農業者ごとの過去5年間の平均収入とすることを基本とする。
    • 当年の経営面積を拡大する場合及び過去の収入に上昇傾向がある場合等は、基準収入を上方修正する。
    • 当年の営農計画に基づく期待収入が過去5年間の平均収入より低くなると見込まれる場合は、期待収入を基準収入として設定する。
  2. 補償限度額及び支払率
    • 当年の収入が基準収入の9割水準(5年以上の青色申告実績がある場合の補償限度額)を下回った場合に補てん。
    • 補償限度額を下回った額の9割(支払率)の補てん金を支払う。
    • 補償限度額及び支払率は複数の選択肢を設定する。
  3. 補てん方式
    • 「掛け捨ての保険方式」と「掛け捨てとならない積立方式」の組み合わせを基本とする。積立方式は選択可。
  4. 保険料及び積立金
    • 保険料及び積立金は、全経営体共通で設定する。
    • 保険料は保険料の受領が少ない者の保険料率を段階的に引き下げる危険段階別に設定する。
    • 保険料は50%、積立金は75%を国庫負担する。
    • 税制面のメリットについても検討する
保険料及び積立金の計算方法
  • 保険料
    =基準収入×補償限度(0.8を上限に選択)×支払率(0.9を上限に選択)×保険料率
  • 積立金
    =基準収入×積立幅(1割)×支払率(0.9を上限に選択)×1/4
  • 保険料・積立金・補てん金額の試算
    基準収入が1,000万円の農業者が、補償限度9割(保険方式+積立方式)、支払率9割を選択した場合
    • 保険料
      =1,000万円×0.8×0.9×0.01=7.2万円
    • 積立金
      =1,000万円×0.1×0.9×1/4=22.5万円
    • 補てん金額
      収入30%減少(700万円)の場合 180万円
      収入50%減少(500万円)の場合 360万円
      収入100%減少(0万円)の場合 810万円
加入及び支払時期
  1. 収入算定期間
    • 個人は1月から12月まで、法人は事業年度の1年間。
  2. 加入申請
    • 原則として収入算定期間の開始前までに加入申請を行い、保険料及び積立金を納付する。
  3. 補てん金の支払
    • 収入算定期間終了後の税申告後に補てん金を支払う。個人の場合は翌年3月から6月まで。
    • 資金繰り対応のため、簡易な審査など使いやすい融資を措置する。
類似制度との関係
  • 農業共済や収入減少影響緩和(ナラシ)対策など、収入減少を補てんする機能を有する類似制度との関係については「選択加入」とする。
  • ただし、コスト増も補てんする制度に係る品目については、収入保険制度の対象品目から除外する。

この制度を適正に運営していくためには農業者の収入を正確に把握する必要があることから、青色申告の実施が加入条件となる見込みです。平成31年の制度開始から収入保険制度に加入するためには平成29年分所得を青色申告で行う必要があり、現在行っていない方は平成29年3月15日までに青色申告承認申請書を税務署に提出する必要があります。

青色申告について

青色申告は収入保険制度の加入要件であるほか、所定の方法で記帳し正しい申告をすることで、税制上次のようなメリットを受けることができます。

  1. 青色申告特別控除
    正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)により記帳すると、一定の要件により最高65万円の控除があります。簡易な帳簿による記帳でも最高10万円の控除があります。
  2. 純損失の繰り越しと繰り戻し
    • 純損失(赤字)を繰り越しして、翌年以降3年間にわたって、順次各年分の所得から差し引きできます。
    • 純損失(赤字)の繰り越しに代えて、損失額を前年分の所得に繰り戻して控除し、前年分の所得税を還付できます。
  3. 青色事業専従者給与の必要経費算入
    生計を一にしている配偶者や15歳以上の扶養親族で事業に専ら従事している人に支払う給与は、あらかじめ提出した届出書に記載された金額の範囲内で必要経費に算入できます。

このほか青色申告の実施には、帳簿をつけることで自らの経営状態をつかみやすくなるとともに、金融機関からの信用を得やすいといった経営上のメリットもでてきますので、この機会にぜひ青色申告を始めましょう。

関連リンク