馬に魅せられた版画家・あすか収蔵円平仁(のぶひら・じん)版画展

 旧常盤村水木に生まれた水谷 毅(みずたに・つよし、1930-1988)が、版画家・円平 仁(のぶひら・じん)として才能を開花させたのは37歳の時です。それまでの円平は腕のいい宮大工として多くの神社仏閣の仕事に携わり、手がけた教会建造物等の彫刻の技量は高く認められていました。ところが、円平が33歳の時に脳溢血で右半身不随となり、宮大工としては致命的な後遺症を残すことになります。4年の闘病生活を経て、リハビリを兼ねて木版画の制作に取り組んだ円平の作品は多くの人の心を捉え、精力的に創作活動を続けていました。

 円平は馬をモチーフとした作品が多く、躍動的でどこか幻想的な画風は、初めて観る人も感動し驚いていきます。躍動感あふれ「まるで(馬が)飛び出してくるようだ。」という作品もあれば、繊細優美と表現されるような、病気による不自由さを微塵も感じさせない津軽獅子舞シリーズ等の作品もあります。

 円平は58歳で急逝するまで数多くの作品を残しています。近隣の町内外の円平ファンはその作品をかなり所有しており、その一部が当館にも多く寄贈され収蔵されています。今回の企画展はその収蔵作品展です。

 

円平の代表作「野生の馬」です。



 先日訪れた女性のお客様は「(当展を観た)姉から、すごく良かったから行って来て、と言われて初めて来たけれど(野生の馬は迫力があり)鳥肌がたった。」「来て良かった。」と大変喜んでくださいました。

「四季を駆ける」シリーズ(下の作品:「春」)




 

 馬の作品も目を見張るものがありますが、津軽獅子舞シリーズの作品も繊細かつ優美で観る人の心を動かします。




 

 「五重塔」という作品は2枚あり、1枚は雪が舞いあがっている中の五重塔、もう1枚は緑の背景に満開の桜が映え、それぞれ趣があり人気の作品です。




 

 余談になりますが、今回意外なところでお客様の関心をひいているのが「津軽弥三郎節」の作品です。展示室には表紙を入れて津軽弥三郎節10番までの全11点が並んでいます。津軽弥三郎節は旧木造町下相野に伝わる嫁いびりの(数え)唄だということで、お客様にはひそかに好評で楽しんでくれます。唄える方は作品の前でひと節のどを鳴らし、年配のお客様は歌詞を書き写していく方もいます。円平の「躍動感あふれる」「繊細優美な」作品とは別のところで、これもまた作品の楽しみ方のひとつとして円平本人も喜んでいるのではないかと思います。

 実は、当館の常連のお客様がこの作品を早くから心に留めてくださり、2007年8月には正調弥三郎節を唄われる盛トキワさん(当時95歳)を、そのお客様が個人的にお連れしてくれました。盛トキワさんも「この作品は宝ものだ」とおっしゃり、作品を前に展示室で唄ってくださったのです。突然の出来事で観客はそのお客様方2人と当館職員の3人だけでした。今となっては貴重なエピソードとなりました。
 その翌年の3月、盛トキワさんが亡くなられたことを新聞が伝えていました。




 

 今回の展示は(シリーズものも含め)全61作品ですが、ここに紹介する作品はほんの一部となります。






 

 今年は午年です。ぜひ会場で「馬に魅せられた版画家」円平仁の作品をご覧になり、心豊かに良い一年のスタートにしていただければと思います。

 「あすか収蔵円平仁版画展」は2月16日(日)までです。お待ちしています。