開催期間 平成24年10月12日(金)~18日(木)

  

 高校3年の時デザイナーになりたくて、最初は武蔵野美大のデザイン科を目指したという小野定さん。予備校にはいるため上京した際、日本画を観る機会があり、そこで出会った1枚の作品が日本画の道へと心動かした。東山魁夷の「秋翳(しゅうえい)」だった。山の紅葉の色に心奪われ、さらには薄くピンクがかった空の色に魅了された。日本画の色の美しさ、岩絵具に魅了されたのだと。「美しいなあ!と思った」。

 

 東京芸術大学日本画科に入り、そこで待っていたのが当時助教授として赴任してきた工藤甲人先生との出会いだった。

 日本画科で工藤甲人に師事した小野さんは、同郷ということをさしひいても甲人先生が自分の若い時を重ねるように、小野さんの作品を楽しみに期待され大切にされたであろうというのが、小野さんの甲人先生を偲ぶお話しから伝わってくる。

 

 有名な芸術家の言葉で「すべての芸術の中で抽象画は最も難しい。それは、あなたが本当の詩人であることを要求します。」というのがあったが、恩師である工藤甲人も画家でありながら詩人と評された。やはり、小野さんも「(甲人先生の教えである)詩情を胸に描いている。」と言う。

 

 今回、来館されるお客さまをみていると、「抽象画」というだけで、よくわからない・・・とおっしゃる方が多い気がする。

 小野さんは「それでいいのだ」と微笑む。「ひとつでも、何かを感じてくれたらそれでいいのだ」と。

 

  
        「地奏の風」S100号 2011年第38回創画展創画会賞

 

 

 「自分では、抽象画を描いているという意識はない。自分のイメージの世界の具現化であり、イメージのもとになっているのは自然と時間の永遠性。絵は微妙なバランスで成り立っている。見たままをリアルに描くだけだと、イメージが限定され広がりがでない。人間だから感じ方がそれぞれ違う。それを大事にして描いている。」

 

 小野さんのほとんどの作品に、様々な線が描かれているが・・・と、お客さまが質問していた。

       「北の七星」F150号 2005年第32回創画展創画会賞

        

 

 改めて注目するとなるほど、やわらかい線、するどい線、ゆっくり曲がっている線、いろんな印象の線が描かれている。「作品は面と点と線で成り立っている。その中で意志を表現するのが線であり、手で描く線、削った線、押してできた線、それを効果的に使おうと考えている。」と言う。

 

 

 

 

 

 作品を観ていると、さまざまなものが見えてくる。小野さんは、魚の化石だったり地層だったり、大地と風をイメージしていたり、とおっしゃっているが、観る人それぞれが見えたものでよいということである。

 また逆に、何かを探してしまう見方より、漠然と感じるイメージ、感情で良いのではないかとさえ思う。

 

 絵を描くことに「卒業」はない。好きな絵を描いて幸せだろう、と言う人もいるが、卒業がないからこそ苦しいときもある、と微笑む小野定さんは「私は、一生、絵を描きながら自分探しの旅をしているようなものです。」とおっしゃいました。

 

 今回の展示は、2003年から2012年までの作品を中心に、50号~150号までの大作が並んでいます。

 

 お客さまが言いました。「抽象画って苦手なイメージがあったけど、わからないなりに観ていてすごく落ち着くし安心感があるのが不思議。」と。

 

 小野さんは「良い作品というのは生まれるもの。必然的に生まれるもの。意識的に描いているだけではなかなか生まれない。無意識の中の意識で描く。」とおっしゃいます。

 頻繁に当館に足を運んでくださる画家のお客さまが、「いつも来ているが、今回の展示は素晴らしい。」とほめてくださいました。当館展示室と小野さんの作品がほどよく調和しできあがった、これもひとつの作品だと思います。

 

 創画会会員でいらっしゃる小野定さんに、恐れ多くも当館で個展を…などとお声をかけさせていただき、快くお引き受けくださった小野さんに感謝申し上げます。

 

 今回会期は18日(木)までとなっております。ぜひ、一人でも多くのお客さまに日本画というもの、抽象画という魅力に少しでも触れる機会となりますよう、お待ちしております。